最大ドローダウンがリターンより重要な理由
1 年間で 40% のリターンを出した 2 つの戦略があるとしよう。一方は途中 15% の下落を伴うだけ、もう一方は 45% 暴落してから一気に回復する——終点は同じだが、後者の方がはるかにリスクが高い。最大ドローダウン(MDD)が測るのはまさにそこ:価格や資産曲線におけるピークから谷までの最大の下落幅。ファンドの審査、プロップファームの評価、戦略バックテストで最も一般的に用いられるリスク指標だ。
リスクの議論でリターンを上回るほど重視されるのは、損失の非対称性のため。ドローダウンは乗法的なので、戻る道は落ちる道より常に長い:
- −10% だと元に戻るのに +11.1% 必要
- −20% だと +25%
- −30% だと +42.9%
- −50% だと +100%
- −70% だと +233.3%
資産が半減すると、原点復帰に 2 倍のリターンが必要——リターンが 2 倍の仕事を背負う。だから「リターン 40% だが MDD 50%」のファンドは、多くの場合「リターン 20% だが MDD 15%」のファンドより劣る選択になる。
本ガイドでは計算式をステップ解説し、数値の具体例を一通り追い、ドローダウン期間・回復期間、そして異なる種類の口座で「許容範囲」の MDD がどの程度かを解説する。
最大ドローダウンの計算式
MDD は時系列の価格(またはポートフォリオ価値)シリーズから計算する。考え方はこう:各時点において、現在値がそれまでの最高値(累積ピーク)からどの程度下落しているかを測る。その測定のうち最大値が最大ドローダウンだ。
- 値を時間順に並べる——1 期間ごとに 1 つの終値、古い順に。
- 累積ピークを追う——各値について、ピークは系列の始点から当該値を含むまでの最大值。
- 各時点のドローダウンを測る——ドローダウン =(ピーク − 現在値)/ ピーク、パーセント表示。
- 最大を取る——全時点のうち最大のドローダウンが MDD。それを生んだピークと谷が MDD のピークと谷。
核心の計算式は:
MDD =(ピーク − 谷)/ ピーク × 100%
谷は対応するピーク以降に出現した最低値。注意:パーセントはピークに対するもので、系列の開始値に対するものではない。100 から 200 に上がり 120 に戻ったポートフォリオは、ドローダウン 40%(ピーク 200 からの下落)であり、元の 100 に対する「損失」20% ではない。
具体例
価格系列:100, 110, 105, 90, 85, 95, 120, 115。
- 累積ピークは 100 から 110 へ上がり、下落中は 110 のまま、その後 120 にジャンプ。
- 時点ごとのドローダウン:0%、0%、4.5%、18.2%、22.7%、13.6%、0%、4.2%。
- 最大値は 22.7% =(110 − 85)/ 110:ピーク 110、谷 85。
- 期間:ピークから谷まで 3 パリオード(110 → 105 → 90 → 85)。
- 回復:谷から 110 以上に戻った最初の値は 120 で、谷から 2 パリオード後——エピソード全体では 5 パリオード。
完全な系列がなくても、任意のピーク・谷の組に対して同じ計算式が使える:ピーク $10,000 から $7,000 へ下落したファンドはドローダウン 30%、現在の $8,500 は依然ピーク比 15% 低い。
ドローダウン期間、回復、現在のドローダウン
全体像を構成する 3 つの関連数値:
- 期間(ピークから谷)——下落自体にどれくらいかかったか。2 週間での 30% と 2 年での 30% は全く異なるリスク:前者は急激なイベント、後者は戦略の前提が崩れている可能性を示す。
- 回復期間(谷から新ピーク)——元のピークまで戻るのにどれだけかかったか。損失の非対称性が効いてくるのがここ。回復は下落よりずっと長く、"ドローダウンに居続ける時間"自体が独立した心理的・運用上のリスクとして知られている。
- 現在のドローダウン——今日の値が累積ピークからどの程度下にあるか。過去に関係なく、いま口座がドローダウン中か、どの深さかを教えてくれる。
同じ 20% のドローダウンでも期間がまったく異なることがある。MDD パーセントだけではその差が見えなくなるため、本格的なリスクレポートは MDD に期間・回復期間を併記する(計算機のヘッドライン数字下の表は、数字そのものと同じくらい重要だ)。
「良い」最大ドローダウンの水準
普遍的な閾値はなく、戦略・資産・口座の持ち主次第。一般的な目安:
- 10% 未満——低。分散された低レバレッジのロングオンリー組合が典型。
- 10–25%——中程度。集中型の株式戦略や多くのロング/ショートファンドが下落相場を通過した後の普通水準。
- 25–50%——高。レバレッジ戦略、暗号資産、不利局面でのトレンドフォローでよく見られる。
- 50% 超——極端。ハイリスクの暗号資産やベンチャー型アロケーションを除き、ほぼ認められない。
プロップファームが最も厳格な場面だ。多くの資金提供プログラムは全ドローダウンの上限を口座の 5–10% 程度、1 日あたり 3–5% 程度に設定しており、歴史的 MDD が 20% の戦略はリターンがいくら高くてもそこで資金を受け取れない。特定の口座で戦略を評価する際は、市場平均ではなく、その口座のハードリミットに対して歴史的 MDD を見比べるべきだ。
有用な補足指標がカルマー比率 = 年化リターン ÷ MDD。最差のドローダウンの"痛み"に対してリターンを正規化する。実務ではおおむね 1 以上を目安にし、3 以上を強いとみなす。年 30%・MDD 15%(カルマー 2)は、多くのリスク予算にとって年 50%・MDD 50%(カルマー 1)より良い選択になることが多い。
自分のデータで最大ドローダウンを計算する
最大ドローダウン計算機はブラウザ内で完全な分析を行う。2 つのモード:
- シリーズモード——価格や資産の系列を貼り付け(1 行 1 値、カンマ/セミコロン区切り可、最大 10,000 点、古い順)。MDD パーセントと正確なピーク・谷の値、ピークから谷までの期間、回復状況と回復時間、現在のドローダウン、色分けドローダウン曲線(10% 未満黄、10–20% 橙、20% 超赤)、深さ順に並べた全ピーク→谷のエピソード表、リスク評価バンドを返す。
- 直接入力モード——ピーク、谷、現在値のみ入力すれば、完全な系列なしでドローダウン率と回復状態を得られる。
すべてクライアントサイドで処理:貼り付けたデータは送信されない。エピソード単位の分析ではなく日ごとのドローダウン系列そのものが欲しい場合は、よりシンプルなドローダウン計算機が完全なドローダウン表を直接出力する。
ドローダウンの数字を誤解させるミス
- 開始値に対する測定。ドローダウンは常に累積ピークに対するもので、系列の最初の値に対するものではない。2 倍になってから半減した曲線は初値比 +100% だが、ドローダウンでは 40% 下落となる。
- 評価基準の不統一。口座やファンドがクロースで評価されていればクロースを使う。暗号資産やデイトレードの口座では、日中の高値安値を使えばクロースより深いドローダウンが出る。基準は一貫させ、何を基準にしたかを明記する。
- 履歴が短い。MDD は最悪値の統計量。3 年窓には最悪のドローダウンが含まれていない可能性がある。どの戦略でも少なくとも 1 回の完全な相場サイクルを跨いで評価すべき。
- 期間を無視する。MDD% が同じでも回復期間が大きく異なる 2 つの戦略は同じリスクではない——20% のドローダウンに 9 年の回復が必要なら、実質的には別の戦略だ。
- MDD と VaR の混同。バリューアットリスクは「所定の期間・信頼水準での損失の上限」に答え、MDD は「手元データでの実際に発生した最悪のピーク→谷の下落」に答える。異なる質問への答えなので、互い代替でなく併記すべき。